自己共役作用素の芯について
2018年3月29日 佐々木格
自己共役作用素 $A$ とその芯 $\mathcal{D}$ を考える。
作用 $Av ~ (v\in D(A))$ は, $\mathcal{D}$ のベクトルによって
任意の精度で近似することができるので, $A$ を $\mathcal{D}$ へ
制限しても $A$ の情報は失われない。
部分空間 $\mathcal{F}$ について
$\mathcal{D}\subset \mathcal{F} \subset D(A)$が成り立てば
$\mathcal{F}$ も $A$ の芯となることは直ちにわかる。
したがって,芯 $\mathcal{D}$ は小いさければ小さいほどよいといえる。
ただし$\mathcal{D}_1, \mathcal{D}_2$ が共に $A$ の芯であったとしても
$\mathcal{D}_1 \cap \mathcal{D}_2$ が $A$ の芯になることは一般には期待できない
(たとえば,掛け算作用素に対して単関数による空間や連続関数の空間はその芯であるが
共通部分は恒等的に0の関数だけである。)。
このことから最小の芯などという概念には意味がない事がわかる。
従って,作用素の芯は状況に応じて適切に選ばなければならない。
多くの作用素の関数について,芯は不変である。
任意の $0< p < 1$ に対して, $\mathcal{D}$ は $|A|^p$ の芯である。
$ 0 < p < 1$ のとき,
$|\lambda|^{2p}\leq \frac{\lambda^2}{p}+(1-p)$ より
$D(|A|^p)\subset D(A)$ であり,
\begin{equation}
\| |A|^p u \|^2 \leq p^{-1} \| Au \|^2 + (1-p) \| u \|^2, \qquad u \in D(A)
\end{equation}
が成り立つ。
$\mathcal{D}$ は $A$ の芯なので,任意の $u\in D(|A|^p)\subset D(A)$ に対して
$\{u_n\}_n\subset \mathcal{D}$
が存在して $u_n\to u, Au_n\to Au ~ (n\to\infty)$ であり,上式により
$|A|^p u_n \to |A|^p u$ となる。
※おそらく冪 $p$ が1より大きい場合には, たとえ $\mathcal{D} \subset D(|A|^p)$
であっても, $\mathcal{D}$ は $|A|^p$ の芯になるとは限らない
(たぶん反例が存在する。)。
次の定理は作用素の芯を小さくするために便利である。
$A$ は $\mathcal{D}$ 上で本質的に自己共役であるとする。
作用素 $A$ は $B$-有界であり, $\mathcal{D}\subset D(B)$ とする。
さらに $B$ はある部分空間 $\mathcal{D}_1 \subset \mathcal{D}$ 上
で本質的に自己共役であるとする。
このとき $A$ は $\mathcal{D}_1$ 上で本質的に自己共役である。
自己共役拡大の一意性より
\[
A\lceil\mathcal{D} \subset \overline{A\lceil\mathcal{D}_1} \tag{*}
\]
を示せば十分であることがわかる。
$A$ は $B$-有界なので,$D(B)\subset D(A)$ かつ,ある $a,b>0$ に対して
\begin{equation}
\| A\Psi \| \leq a \| B\Psi \| + d \|\Psi \|,
\qquad \Psi \in D(A) \tag{**}
\end{equation}
が成り立つ。
$u \in \mathcal{D}$ とする。 $u\in D(B)$ なので
$\mathcal{D}_1$ が $B$ の芯であることから, $ \{u_n\}_n \subset \mathcal{D}_1$
が存在して, $u_n\to u, Bu_n \to Bu~(n\to\infty)$ となる。
不等式(**)から $\{ Au_n \}_n$ がCauchy列となる。従って $Au_n$ は収束列である。
よって作用素の閉包の定義より(*)が成り立つ。
Example. $A(x)$を量子電磁場, $N$を個数作用素とする。
$(p-A(x))^2$は$\mathcal{D} := D(p^2)\cap \cap_{n=1}^\infty D(N^n)$上で本質的に
自己共役であることが汎関数積分を用いて証明されている。
$\mathcal{D}_1:=C_0^\infty(\mathbb{R}^3) \hat\otimes \mathcal{F}_\mathrm{fin}(C_0^\infty(\mathbb{R}^3))$とすると $\mathcal{D}_1$ は $p^2+N$ の芯である。初等的な不等式
\[
\|(p-A(x))^2 u\| \leq c \|(p^2+N)u\| + d \|u \|, \qquad u\in D(p^2+N)
\]
と上の定理を用いれば, $(p-A(x))^2$ は $\mathcal{D}_1$ 上でも本質的に自己共役
であることがわかる。