卒業研究(4年生,自由科目)について

2023年度現在,卒業研究(ゼミ)は必修ではありませんが,4年次までに学んだことを本当の意味で身につけるには,やはりゼミをやることを勧めます. 既に単位を取得した科目の内容であっても,ゼミで教員に質問されるとうまく答えられない,ということは多々あります. それは単に時間が経って内容を忘れてしまっただけでなく,そもそもの理解が曖昧だった,ということです. 数学の知識そのものを社会で具体的に使うことは多くないと思いますが,物事をきちんと掘り下げて考える,という経験が将来に生かされると思います. ゼミのやり方については下に少し書きましたので,参考にしてみてください.

大学院への進学について(特に教員志望の人へ)

大学の4年間だけで最先端の研究に近づくことは難しいと思います. より深く学びたい人には,大学院への進学を検討することを勧めます. 進学の意思が早めに固まっている場合は,そのことも見越して4年次のゼミの内容を選ぶこともできます.
中学・高校の教員を志望する人に知っておいてほしいのは,都道府県や自治体によっては,大学院進学希望者(ならびに大学院在学生)について,採用試験合格後から採用まで1~2年程度の猶予が与えられる等の特例を設けている場合があることです. 令和元年度採用については,都道府県単位では全国で特例措置が行われているようです(下記). 大学院で深く学んだ後に教員になることもできますし,採用試験の機会が多く確保される,という考え方もできるかもしれません. 対応は自治体により異なるので,例えば などをご覧ください. 数年間の推移を見ると,特例措置は拡充の傾向にあるように見えます.
4年次の卒業研究で境ゼミを希望される方への注意をまとめます.

境ゼミで学ぶ内容

境ゼミでは,多様体のトポロジー,またはそれに近い内容について,テキストを(なるべく全員で同じものを)一冊決めて輪読します. 過去に扱ったテキストについてはこちらをご覧ください.
幾何学やトポロジーで扱う幾何的対象にはいろいろなものがありますが,その中でも多様体は,その上で微分・積分ができるような整った対象であり,最も活発に研究されているものの一つです.
多様体の例としては3次元空間内の曲面などがあります.曲面がそうであるように,多様体は一般的には「曲がって」おり,そのままでは扱いが難しいため,まっすぐなもの(接空間と呼ばれる)で近似します. これは関数のグラフに接線を引くことの一般化で,このことにより線形代数を使えるようになります.
3年次までに学んできた微分・積分や線形代数,さらには解析や代数の知識がどのように生かされるのか知る上で,多様体は格好の題材と言えるのではないかと思います.

ゼミ配属の要件

「卒業研究を受講するための要件」については,学生便覧をご覧ください.
境ゼミへの配属には,さらに を要件とします.成績は「不可」でもよいものとします. ただし「不受講」は認めません.
2019年度の場合,ゼミ配属内定の時点で「多様体論」の成績は確定していませんが,必ず履修登録し,要件をみたすよう努力してください.
必須要件ではありませんが,「幾何学特別講義」「幾何学特論」等の幾何学に関する講義が開講されている場合は,それらも受講していればなおよいと思います.

定員について

一つのゼミに配属される学生は大体4人程度が上限です. 万が一,希望者が定員を超えた場合,以下の条件で優先順位を決めます(上の項目ほど優先).

  1. 「トポロジー」の単位を取得していること(2018年度の場合,「多様体論」はゼミ内定時に単位未確定)
  2. 「幾何入門」「位相空間論」「同演習」「多様体論」の成績(「秀」4点、「優」3点、「良」2点、「可」1点で点数化)
  3. 「幾何学特別講義」「幾何学特論」の成績 ((ii)と同様)
滅多にないと思いますが,これでも決まらない場合,「微分・積分」「線形代数」の成績も考慮することがあります. 多様体(に限らず,あらゆる分野)を学ぶには,これらが必須だからです.

卒業論文,卒業研究発表会

仕上げとして,卒業研究で学んだことを卒業論文にまとめ,また卒業研究発表会で発表してもらいます. 通常は12月頃から卒論の執筆を始め,1月末日に仕上げます. また多くの場合,卒業研究発表会は2月上旬~中旬です.
実際にゼミをやるにあたり,具体的にどう進めたらいいか,最初はイメージが湧きにくいと思います. 何点か書いてみたいと思います.

ゼミで目標とすることは

  1. 数学的な内容を理解すること,
  2. それをうまく説明する方法を体得すること
の2つがあると思います. まずは1.で苦労することになりますが, 1人ですべて理解するのは多くの場合は不可能で, 他の文献をあたったり,誰かに相談し議論して理解していくことになります. この議論の過程がとても大切だと思います. 後でも述べますが,ゼミの発表とは,教員も一緒になって何かを学ぶ場であって,学生が内容を正しく理解しているか教員が確かめる試験ではありません.教員は試験の出題者ではありませんから,準備の段階で数学的にわからないことを教員に相談することには何の問題もありません. 教員の側も議論することを望んでいるはずです.

2.について,要は,先生がやっている講義を皆さんがやればよいわけです. これは1.のもとに行われるわけですが,テキストに書いてある通りにゼミを進める必要はありません. 聴講者が最も理解しやすいゼミにするためには何が必要で,何を省略すべきか,よく考えてください. 時には,複雑な定義の説明を補足するため,テキストに書かれていない例を挙げたりするのも有効でしょう.
日本語は正確に書くべきですが,長い文章を全て書いていると時間が足りませんから,工夫が必要です.

大事にしてほしいのは,発表者が数学的な事実をしっかりと把握することです. 極端に言えば,何も考えずともテキストをそのまま丸写しして板書すれば数学的には間違いはないはずですが(それでも間違っていることもありますが),それは時間の無駄です. 数学的な理解がしっかりしていて初めて,毎回の発表の構成,数学的な議論の流れをしっかり考えた発表ができるようになります. そのような発表であれば,誤りがあっても議論をして解決することができるはずで,そのほうが無難なゼミより得るものは大きいはずです. 分量は必ずしも多くなくて構いません(少なすぎてもいけませんが). ゼミが実りあるものになるよう,責任を持って発表できるように準備してください.

ゼミで発表をするにあたっては,必ず自分でまとめたノートを使い,原則として発表者はテキストを見ないでください. 多くの場合,テキストに書いてあることをそのまま読んでいるだけでは,きちんとした理解には至りません. 定義されている内容がどんなものか,命題は何を言おうとしているのか,具体例を通して自分で計算してみたりすることが必要です. こうした作業を通して,内容を多角的に捉えることができ,そこで初めて問題点に気づくこともあります. 中学・高校で教員として授業を行う場合も同じことが当てはまると思います.

とは言っても,何かの勘違いで,テキストを見なければどうにもならない場合もあり得ます. そのときは,聴講している(同じテキストを読んでいる)メンバーが助けてあげてほしいと思います. 全ての話は繋がっているので,全員が全ての内容を(発表を担当する部分以外も)理解している・しようと努力しているのは当然であり,助け舟を出すこともできるはずです.

教員が発表者に質問をするのは,主に3通りの場合があります:

  1. 基礎的なこと(例えば,線形代数や微分・積分に関すること)がわかっているかの確認
  2. 発表者の説明が適当でないと思われる
  3. 教員が内容を理解できない
上の2つは発表者がしっかりと準備して対応してほしいところです.
3番目について,場合によりけりですが,教員は内容を事前に把握した状態で発表をチェックしているわけではなく,せっかくなので何か新しいことを学びたいと考え,聴講者のようなつもりでゼミに臨んでいます. 教員も含めて,聴講者に過度な予備知識を要求してはいけません. 例えば中学・高校の先生になる人は, 生徒が何もわかっていない状況で授業をしなければならないわけです. 必要なことはもれなく,しかしなるべく簡潔に説明しなければなりません. また,十分な準備のもとに説明されたとしても,難しい内容を理解するのは困難です. こういうとき,教員は発表者と議論し,理解したいと考えます. 発表者は臆することなく,あの手この手で説明を試みてほしいと思います.

繰り返しになりますが,ゼミでの発表をしのごう,乗り切ろうとするのは間違いです. 身につけてほしいのは(問題を回避する能力でなく)問題を解決する能力ですから,大事なのは発表者が内容を真に理解することです. それは進学を希望するか否かに依りません. わからないところを誤魔化さず,考え抜くことが大事です. 考え抜いて,いろいろな文献を調べて,周りの人に質問して,それでもわからないことが残ることは当然あり得ます. どこまでがわかっていて,何がわからないか,がはっきりしていれば,ゼミの場でみんなで考えることができます. 議論して理解できたことは,発表者にとっても大事なことですから,必要とあれば中断してメモを取ってください.

以下,ゼミのやり方,あるいは数学の勉強の仕方について書かれたページを紹介します(五十音順).
※著者の方々へ:無断でリンクを貼っております.差し障りがありましたら,お手数ですがご一報ください.すぐに削除します.

赤穂まなぶ先生(首都大学東京)
石川剛郎先生(北海道大学)
桂田祐史先生(明治大学)
河東泰之先生(東京大学)
佐藤隆夫先生(東京理科大学)
下村克己先生(高知大学)
竹山美宏先生(筑波大学)
沼田泰英先生(信州大学)
古田幹雄先生(東京大学)
山田裕一先生(電気通信大学)

ゼミの様子を知るには,まずは恐れずやってみることが一番の近道でしょう. 自主ゼミには積極的に取り組んでほしいと思います.
また境ゼミではメンバー以外の聴講も歓迎します. 様子を知りたいときは,ぜひ聴講に来てください.

(2023/4/24)