数理科学談話会
2023年11月10日(金) [2023年度第8回数理科学談話会]
13:00 - 14:30
流体力学で探る生き物の形と動き
講演者:石本 健太 氏
(京都大学数理解析研究所・准教授)
流体力学とは、水や空気のような流れる物体の運動を調べる応用数学の一分野で、主に工学や地球科学と密接に関わりながら発展してきました。その中でも、生物に関わる流体力学の分野を生物流体力学といい、川の中を泳ぐ魚の運動、花々を巡る蝶の羽ばたき、そして空を駆ける鳥の飛翔などが含まれます。進化の過程で洗練されてきた「生き物の形と動き」は流体力学的にも優れた機能を有しているのでしょうか。環境に従順的な小さな生き物ほど、その周囲の流体の影響を強く受けているはずです。本講演では、目に見えないサイズの生き物である微生物の形と動きを、流体力学の方程式に潜む対称性から探りたいと思います。
細胞スケールの水の流れは、ストークス方程式と呼ばれる線形の偏微分方程式でよく記述されます。この問題の面白さは、流体領域の境界に対応する生き物が、自ら変形し移動する移動境界問題になっていることです。その最も象徴的な例が、帆立貝定理として知られる、流体方程式の対称性に起因する生き物の運動に対する力学的な制限です。この定理は、微生物が時間反転対称な往復運動と呼ばれる変形をすると、その変形の1周期で元に戻ってしまい、どこにも泳いで行くことができないということを主張しています。
講演では、微生物の流体力学の基本的な内容から話を始め、精子遊泳や受精現象の流体力学、そして形や動きの力学的な運動効率と生物進化について議論したいと考えています。さらに講演の後半では、講演者の最近の研究結果である、(1) 生き物の「流体力学的な形」の理論や、(2) 遊泳微生物をエネルギー保存則を破る非平衡物質として記述する奇弾性流体力学の理論、を簡単に紹介する予定です。
世話人:松本 卓也 (理学系) 高梨 功次郎 (理学系)
キーワード:生物流体力学、微生物、ストークス方程式、形・動き
講師の専門分野:応用数学・流体力学・数理生物学(生物流体力学)
会場:数理・自然情報合同研究室 (A401, 理学部A棟4階西側突き当たり)
2023年11月1日(水) [2023年度第7回数理科学談話会]
14:40 - 16:10
符号理論、千葉大ビール、束論
講演者:萩原 学氏
(千葉大学 大学院理学研究院 数学・情報数理学部門 教授)
千葉大ビールは千葉大生を中心にクラフトビールを作る活動です。この講演ではクラフトビールの作り方を主に、活動を通じて気づいた、学術連携の可能性や大学がクラフトビールを作る意義などについて述べます。ときおり、数学的な話も混ぜます。
キーワード:誤り訂正符号、クラフトビール、形式概念解析
講師の専門分野:符号理論・組合せ論
会場:会場:数理・自然情報合同研究室
2023年10月24日(火) [2023年度第5回数理科学談話会]
16:20 - 17:30
共形場理論・弦理論の双対性と可解模型
講演者:松尾 泰 氏
(東大理)
弦理論が量子異常や発散を含まぬ量子重力の候補として確立したのは80年代であった。その際、弦理論の基本的な対称性として確立したのが2次元共形対称性である(ヴィラソロ代数とも呼ばれる)。2次元共形対称性は物理数学や流体力学などで登場する等角写像全体がなす群であり、無限次元であることもあって、低次元系であれば系の性質を完全に決定する強力な解析手法であり、数学と物理の境界領域として多くの研究がなされた。90年代になると、弦理論にブレーンなど高次元に広がった膜が存在し、ある種の双対性を持つことが認識されるようになってきた。双対性とは、我々が良く知る例でいうとハイゼンベルグの不確定原理における座標と運動量の関係や、電磁気学における電場と磁場の対称性などが、良く知られる例である。このような対称性はある意味で素粒子とソリトンがある意味で同一視可能であることを意味し、ここ20年近く弦理論の主要な研究テーマとなってきた。2010年ころになると、双対性についてより精密な対応関係が知られてくるようになってきた。特にブレーン上で定義された4次元ゲージ理論の一部の物理量については、理論的に完全に導くことが可能であり、それが共形場理論で導かれる相関関数と一致することが予想された。この理論的な「現象」を理解するうえで本質的であったのが可解模型の手法であった。可解模型とは例えば2次元イシング模型のように分配関数や相関関数が完全に解ける物理系であり、100年近く深化され続け多くの手法が開発されている分野である。Bethe仮説、Yang-Baxter方程式、q-変形代数などがその例である。このコロキウムでは、ゲージ理論や弦理論の解析において可解系の手法がどのように発展し本質的な手法として応用されていったかとについて歴史的な発展も交えて解説したいと考えている。
世話人: (理学系)
キーワード:
講師の専門分野:
会場:第7講義室
2023年10月24日(火)
16:40 - 17:40
ファン・カンペン-フローレスの定理とシュティーフェル-ホイットニー類
講演者:松下尚弘氏
(信州大学理学部数学科)
ファン・カンペン-フローレスの定理とは、 2d + 2 次元単体の d-骨格は 2d 次元のユークリッド空間に位相的に埋め込むことはできないという定理である。本講演では、ある特性類の条件を満たす多様体の三角形分割の d-骨格に対しても、同様のことが成立することを述べる。特に本研究の結果から、非自明な全シュティーフェル-ホイットニー類を持つ 2d+1 次元多様体の三角形分割の d-骨格が 2d 次元のユークリッド空間に位相的に埋め込むことができないことがわかる。本研究は九州大学の岸本大祐氏との共同研究である。
会場:会場:数理・自然情報合同研究室
2023年10月24日(火)
15:30 - 16:30
(±1)歪射影空間の組合せ論的分類
講演者:上山健太氏
(信州大学理学部)
Artin-Zhangによって、表現論的に非可換射影スキームという概念が導入されている。それ以降、非可換射影スキーム、中でも非可換射影空間は非可換代数幾何学における中心的な研究対象である。本講演では、(±1)歪射影空間(という非可換射影空間の特別なクラス)を組合せ論的に分類した結果を紹介する。
会場:会場:数理・自然情報合同研究室
2023年10月24日(火) [2023年度第4回数理科学談話会]
13:00 - 14:30(3限)
森林流域におけるかく乱に伴う渓流水の硝酸態窒素濃度の長期変動とその規定要因
講演者:勝山 正則 氏
(京都府立大学教授)
要旨:滋賀県南部に位置する桐生水文試験地において、渓流水・地下水の長期観測を行っている。この流域は森林流域で、流域の一部に存在したアカマツが1990年代にマツ枯れにより枯死し、現在は60年生のヒノキ人工林となっている。マツ枯れの影響で渓流水の硝酸態窒素濃度が上昇史、1990年代後半にピークに達した。2005年にかけて濃度は低下したものの、その後再び上昇し、現在でもかく乱発生前の濃度レベルには戻っていない。このような複雑な変動をさまざまなアプローチで検証する。
世話人:牧田 直樹 (理学系)、榊原 厚一 (理学系)、村越 直美 (理学系)
キーワード:水文過程・長期観測・渓流水・硝酸態窒素・森林流域・かく乱
講師の専門分野:森林水文学
会場:理学部13番講義室
2023年7月25日(火) [2023年度第3回数理科学談話会]
15:10 - 16:40
実験データ駆動型のインフォマティクスによるイオン液体・柔粘性結晶の解析
講演者:畠山 歓 氏
(東京工業大学)
本発表では、データ科学を用いてイオン液体、柔粘性結晶や高分子イオン伝導体の分子構造と物性の相関を解析する手法を紹介する。具体的には、NISTが運営する世界最大のイオン伝導体データベースILThermoの活用状況、柔粘性結晶の解析、構造ー物性相関モデルを構築する手段などについて議論する。
世話人:二村竜祐 (理学系)
キーワード:マテリアルズ・インフォマティクス、イオン液体
講師の専門分野:高分子、インフォマティクス、有機電気化学
会場:数理・自然情報合同研究室(A棟4階西側つきあたりの部屋です)
2023年6月1日(木) [2023年度第2回数理科学講演会]
15:10 - 16:40
グラフとメトリックグラフに関する逆問題について
講演者:岩崎 悟 氏
(大阪大学大学院情報科学研究科 情報数理学専攻システム数理学講座 助教)
与えられたデータから背後にある数理モデルや状態変数を推定する問題は広く逆問題と呼ばれている.本講演では主に二つの逆問題について紹介をする.一つ目はグラフに関する逆問題であり,頂点上の時系列データのみが与えられている場合に,その時系系データから各時刻における頂点同士の接続関係(隣接行列の時系列)を推定する動的グラフ学習という研究について紹介する.一つ目の研究は現在修士1年生の髙橋優輝氏との共同研究に基づく.二つ目はメトリックグラフと呼ばれる空間領域上の熱拡散方程式の逆問題ついて紹介する.メトリックグラフ内部に有限個のセンサーを配置した状況を想定し,そのセンサー上での熱の観測時系列データから初期状態を一意に推定できるためのセンサーの配置座標の必要十分条件を求める問題について紹介する.
世話人:太田家 健佑,栗林 勝彦
キーワード:グラフ信号処理,動的グラフ学習,メトリックグラフ,熱拡散方程式
講師の専門分野:TBA応用数学,情報科学,偏微分方程式
会場:zoom オンライン
2023年5月10日(水) [2023年度第1回数理科学講演会]
15:10 - 16:40
デイジーワールドモデルとミツバチ営巣モデルに対する解析と数値シミュレーション
講演者:陰山 真矢 氏
(関西学院大学理学部数理科学科)
私たちの身近に見られる生物現象の多くは非線形現象と呼ばれ,非線形な方程式によって書き表すことができる. それらの構造を数学的に理解することは,現象が起こるメカニズムを解明する近道となる. 本講演では,講演者がこれまでに取り組んできた 2 つの非線形方程式について紹介する. 1つ目は,デイジーワールドモデルと呼ばれる非常 に単純な地球システムモデルである. 白と黒の 2 色のデイジーの花しか生息していない仮想の惑星「デイジーワールド」において,温室効果の強さがデイジーの分布にどのような影響を与えるかを議論する. 2つ目は,ミツバチの営巣過程を記述する数理モデルについて,ミツバチの実験結果と併せて紹介する.
世話人:太田家 健佑,栗林 勝彦
キーワード:デイジーワールド,ミツバチ営巣,非線形方程式,パターン形成
講師の専門分野:応用数学,非線形現象,数理モデル
会場:数理・自然情報合同研究室